夕凪SO BLOG

2021/04/28

【blue ink】街に犬のいる風景


犬の
                        いる景色

 幼い頃、犬が苦手だった。

 理由は単純なもので、幼稚園に通う道の途中で一度、野良犬に足を噛まれたことがあったからだ。そう言えば、最近は野良犬の姿をあまり見かけなくなったように思う。(野良猫はしょっちゅう見かける)しかし、私の生まれ育った香川県の片田舎では当時多くの野良犬が街を徘徊していたものだった。幼かった私はその野良犬に出くわす恐怖に怯えながら幼稚園、そして小学校に通っていた。家を出て通学路に繰り出すやいなや、野良犬の気配を敏感に感じ取りながらおどおどと道を進み、時には小走りで近所の民家に逃げ込んだ日もあった。(これは決して誇張ではない、当時の私にとっては本当に恐怖だった)

 いつのことだったか、小学校からの帰り道を野良犬が見事にとうせんぼしていたことがあった。通学路には一部道幅の狭い田んぼの畦道があり、その畦道の20〜30m先に野良犬が仁王立ちしていたのだ。当時小学1年生だった私は半べそをかきながら、その道を行ったり来たりしていた。30分以上の時間が経っただろうか…、永遠に家に帰れないのではないかと畦道で絶望し、ぐすぐすと泣いていた時だ。

後ろから「どこの子ぞ?」という声が降ってきた。振り返るとそこには1台の軽トラックが停まっており、その窓から麦わら帽子を被ったおじさんが顔を出していた。おじさんの首にはくたびれたタオルが掛けられていた。田んぼ仕事を終えたところだったのだろう。おじさんは私の胸についた「ふじわら」という名札を見て察したのだろう「邦男さんとこの孫か?」と私に尋ねた。私は涙目でうんうんと頷いた。おじさんは「わしの軽トラに乗り。邦男さん家まで送ったげるきん。」と私に申し出てくれた。

 まさかの救世主登場であった。おじさんの軽トラの助手席に乗れば、あの恐ろしい野良犬を車窓から見下しながら安全に家に帰れるのだ。これ以上の提案はない。すぐにでもおじさんの軽トラに乗り込みたかった。

 しかし、その時、小学校の「帰りの会」で担任の石川先生が言っていた言葉がふと頭をよぎった。「知らないおじさんには絶対についていってはいけません。」少年ふじわらは葛藤した。そうだ。この一見、神様にも思える申し出をしてくれたおじさんは、明らかに「知らないおじさん」だ。一体、どうしたら良いのか・・・。少年ふじわらの出した結論は・・・。「先生から知らんおじさんに付いて行ったらいかんって言われとるきん、おじさんが僕についてきて。」という逆提案であった。


 おじさんは畦道で仁王立ちしていた野良犬を追い払ってくれ、私が家に歩いて帰るまでの間、ゆっくりと軽トラで伴走をしてくれた。少年ふじわらは軽トラのおじさんを引き連れて無事に家に歩いて帰ったのだった。この帰り道のことを、私は今でもよく覚えている。どれだけ、あの軽トラのおじさんの存在が心強かったことか。「知らないおじさん」に助けられたこの日の出来事については、家族からは未だに馬鹿にされるネタの一つだ。そのくらい、私は昔から怖がりな少年だった。(麦わら帽子を被ったおじさんの正体は邦男じいいちゃんの知り合いの「まっちゃん」だった)


 そんな怖がりだった私が野良犬と出くわしても、怖いと思わなくなったのはいつの頃からだっただろうか・・・。おそらく野球をはじめた頃だったと思う。私は小学校5年生からソフトボールをはじめ、それからどっぷりと野球の世界にハマっていった。その頃から不思議と犬のことが怖くなくなっていったのだった。(お子さんが犬を怖がっていて心配している親御さん。ひょっとすると野球をやらせるといいかも知れません。)


犬のいる景色 犬のいる景色

 そんな少年ふじわらは33歳になり、2020年10月に野球チームを作ろうと思いたった。(最初は本当の一人きりで、少しずつメンバーが集まってくれた)本当はちゃんとした球場や野球ができるようなグラウンドで練習をしたいけれど、十分なお金もないし、硬式野球ができる球場の予約というのは簡単ではない。そこで、私が練習場所に選んだのが袖ケ浦海浜公園だった。家から何せ近いし、広い芝生の広場がある。そして、東京湾に面したそのロケーションは晴れて無風の日にはこの上なく気持ちの良いものだった。(逆に真冬の冷たい風の吹く日は恐ろしく過酷なコンディションにもなる)東京湾にかかるアクアライン、海ほたる、風の塔、そしてその先にある東京の街が一望できる。さらにその背後には美しく雪化粧した富士山がの姿を望むことができる。休日の朝いちばんにこの景色を見ると本当に清々しい気持ちになるのだ。

 SO BLUEの練習はこの場所からスタートした。練習時間は早朝の7:30−9:30の2時間程度。晴れた日の袖ケ浦海浜公園には、お昼前になると多くの家族連れの方々がやってくる。その時間を避けて練習をするために選んだ時間が早朝の2時間だった。

 たいていの場合、私たちが一番乗りで海浜公園の芝生広場にやってくる。そして、ランニングをしてストレッチをして、スプリントをして、キャッチボールをする。これが通常のSO BLUEのルーティーンになっている。


 キャッチボール後半の時間になると決まっていつも大きな黒い犬を連れたおじさんが芝生広場に現れる。おじさんは赤茶色のダウンを羽織り、白髪のやや長い髪に日焼けした顔、そして、パイロットサングラスをかけている。相棒の黒い犬は毛並みが艶やかで美しい。


犬がいる風景 犬がいる風景  「おはよう、今日もやってるね。」  いつしかそんな声をかけてくれるようになった。  「おはようございます。」

 こちらもおじさんと相棒の黒犬に声をかける。

 早朝の練習には妻と1歳の息子もたまに一緒にやってくる。息子はニコニコしながら野球ボールで遊んでいるが、その大きな黒犬が芝生広場に現れると興味深々。いつも果敢におじさんと犬に絡みに行っている。犬が苦手だった私の子供とは思えない…。

「君らはどっかのチームに入ってるの?」  ある日、おじさんは私に尋ねた。 「いや、僕らはこれでチームなんです。今、新しくチームを立ち上げている最中で。」

 SO BLUEが対外試合をできるようになったら、おじさんと黒犬にも是非試合を見に来てほしいなと密かに思っている。


 今は街に犬がいる風景が、私は好きだ。



     

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