夕凪SO BLOG

2021/05/29

【blue ink】バガボンド


ゴソゴソゴソ…。シュッ…。


部屋の隅で何かが蠢いている気配がする。まだ辺りは薄暗い。脳も覚醒していない。寝ぼけ眼で寝室の壁にかかった時計の時間を確認した。時計の針はAM5:30を指している。 あぁ今日も…。この部屋で起きている事実をようやく脳が認識した。しかし、まだ身体をベッドから起きあげることができない。あと、30分。 あとせめて30分待ってくれ、息子よ…。


ゴソゴソゴソ…。シュッ…。


1歳4ヶ月の息子が寝室の隅にある本棚から私の愛読書である「バガボンド」を片っ端から引っ張り出してポイポイと投げ捨てている。 私の息子にしてはスローイングのセンスがある。掴むのも難しいであろう漫画本をしなやかなフォームで次々とスローしていく。 こやつ、只者ではない…。


私は幼い頃から、本を読むことが好きだった。 小学生の頃よく読んでいたのは、「ズッコケ3人組」シリーズや「エルマーとりゅう」シリーズ。何冊も持っていたし、繰り返し読んだ記憶がある。最近は息子が読んで(投げ捨てて?)いる絵本をみて、密かに懐かしんでいる。 私は「本」というもののフォルムやパッケージが好きだった。なるべくページに折り目が付かないように…、本の角がへこんだり傷がつかないように…。 本の中身を読み、物語を楽しんだり、知識を得たりすること以上に「本」という物質そのものを”持っている”ということ。そして、そのページを開いて著者の描く世界の中に入っていくことが好きだった。

新居に引っ越す際に家にある本の数を数えてみると400冊程度あり、段ボール10箱程になった。そのうちの2割程度は、妻がラクマを駆使して着々と売却してくれている(頭が上がらない)。それでも現在も300冊超の本が我が家にはあり、寝室には本棚を据えてある。 そして、その本棚の最下段には「バガボンド」の1〜37巻が収められている(私は漫画本では、「バガボンド」と「BLUE GIANT」だけは全巻手元に置いておくと決めている)。


息子は、毎朝この「バガボンド」の少なくとも15巻分程度を本棚から引き抜き、寝室の床に投げ捨てなくては1日が始まらないと思っているらしい。真剣な顔つきで、実に忙しそうに日々のルーティーンをこなすかのように1巻ずつ確認しながらポイポイ投げ捨てている。 (まれに2階の階段から1階に向けてスローイングすることもある)


本棚には他にも大量の文庫本が収められているし、なんなら最下段にはもう1つの棚があって、そこには「MONKEY(これも私の愛読書だ)」等が収められているのだが、息子はそれには見向きもしない。一心不乱に「バガボンド」だけを毎朝投げ捨てている。 1日1巻ずつ漫画本に付いている帯がクシャクシャになって転がっているので、朝一で息子のオムツと「バガボンド」の帯をゴミ箱に入れるところから最近の藤原家の1日は始まっている。


「バガボンド」をご存知だろうか?「SLAM DUNK」の作者である井上雄彦さん作(原作は吉川英治さんの小説「宮本武蔵」)の漫画で1998年から連載がスタート。現在は単行本37巻というところで2015年から連載が休止している。 宮本武蔵と佐々木小次郎を描いた物語だが、まだ作中で2人は戦っていない。 私は「SLAM DUNK」のドストライク世代であるが、はじめて「SLAM DUNK」を読んだのは大学生の時だ。大学野球部の同級生だったSから全巻を借りて貪るように読んだ。従って、「バガボンド」を読み始めたのもこの頃(2008年頃)だ。「バガボンド」には人生の糧になる名言や名シーンがたくさんあるが、今はそれについて書きたいわけではない。

今回書きたいのは「骨格」の話だ。


夕凪SO BLUEのストレングス・トレーナーである山田京介は「骨格調整」特に「頭蓋骨調整」という理論を軸に活動しているトレーナーだ。正直、「なんか怪しい…」と最初は思っていた。なんとも難しそうな話だし、正直、野球はそういう難しい理論などに頼らなくても十分に面白いと思っていた。 しかし、ある日、山田と一緒に練習をしていた時のことだ。「バガボンド」の話になった。京介も「バガボンド」の愛読者だったらしい。 「美しい動き、天下無双の剣の達人を描こうと思ったら、良い骨格でないと成立しないんですよ」と京介は言った。そして、井上雄彦さんはそれを分かって作中の人物を描いているのだろうと彼は推測していた。


どういうことなのかと思って話を聞いて見るとこうだ。 「作中の中で主人公の宮本武蔵が山中でウサギを獲るシーンがある。武蔵は小石をウサギに投げつけて命中させるのだが、その際に野茂英雄ばりのトルネード投法を披露する。この動きが実に美しく(かつ強そうに)見えるのだ」という。


言われてみれば、思い当たるシーンが他にもある。吉岡十剣の1人である祇園藤次を抜刀術で切り伏せるシーンは、さながらバリー・ボンズやケン・グリフィーJrのホームラインスイングのような美しさだし、蓮華王院で吉岡伝七郎の懐に斬りかかるシーンなどはイチローのライトからのバックホームのようなしなやかさを感じる。(少々マニアックで申し訳ない笑)そんな話で30過ぎのおっさん2人は興奮気味に盛り上がっていた笑


「天下無双の剣士を描こうとした時、なぜこう言う動きになるのか?それは他者の間合いの外から斬撃を打とうと思うと、骨格が良くないとそのように剣を振れないからだ」と京介は言う。 確かに、武蔵や小次郎の剣は他の侍の間合いの外から振るわれる。威力が違うし、相手が間合いに入れない。だから強い。剣の技術もさることながら、ベースにあるのは骨格だ。その骨格の上に、「ぬたぁん」という脱力と精神の極みが加わって、最強の剣士になるのだろう。 (野球でいうとバッティング技術の確立と投手との間合いを制している打者という感じだろうか)


その時、やけに納得した。おそらく、自分は「身体(骨格)」にはあまり目を向けず、ずっとわき差しでボールを斬るための技術と間合いの練習ばかりを行っていたのだろうと。 もちろんその方が確率がいい場合もある。シングルヒットを打つならそれでもいいのかも知れない。 だが、長剣で誰にも邪魔されない間合いから最速の剣を振れるのであれば、きっとそれが天下無双だろうと(スピードボールを遠くに飛ばすという野球のロマンだ)容易に想像はつく。 京介は(多分)それを目指しているのだ。少しでもそれに近い姿に近づけるように研究を重ねている。


そう捉えると結構「骨格調整」というややこしい言葉がすんなり頭に入ってくるようになった。それは、強く「ぬたぁん」と剣を振るために、自分の身体を武蔵の身体のイメージに近づける作業だ。


ゴソゴソゴソ…。シュッ…。


今朝も息子はいつものルーティーンを開始したようだ。 息子よ、その本を投げる前にまず、宮本武蔵のトルネード投法の部分をよく読んでおきなさい。その箇所を読んだあとで、その本を投げてくれ。理論と実戦の機会を両方与えてくれるとは、「バガボンド」はやはり恐ろしいほどの名作だ。

そう思いながら、今日も私はベッドから起き上がれない。

息子


街に野球がある景色を100年先にも




     

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